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【トピックス】日銀のマイナス金利をもっと詳しく&わかりやすく解説! 当座預金、準備率、付利

2016.2.4 日銀Q&A更新を受け、一部内容を更新

 

※日銀の過去20年の金融政策を振り返り、現状の量的緩和政策の課題点に言及した最新エントリーもご覧ください。

 

みなさんこんにちは、STAMです。今回は前回の日銀のマイナス金利政策について、もう少し詳しく解説します。

 

 

・日銀マイナス金利政策の詳細について

日銀のHPには、今回のマイナス金利導入に関する文章およびQ&AがPDFで掲載されています。参考までにURLを載せておきます。

本文:https://www.boj.or.jp/announcements/release_2016/k160129a.pdf

Q&A:https://www.boj.or.jp/announcements/release_2016/k160129b.pdf

 ※2月3日にQ&Aに(8)が追加され、マクロ加算額やー0.1%が適用される政策金利残高についてのおおよその数字が確認されました。

 

では、Q&Aの1ページ目の下図をもとに、今回のマイナス金利政策について詳しく説明します。 

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日銀は2008年9月のリーマンショックの後、民間の銀行が日銀口座に預ける預金残高のうち所要準備額(日銀に必ず預けなければいけない金額)を超えた金額(超過準備額)に対して0.1%の金利をつけてきました。それが今回のマイナス金利導入により大きく変わります。具体的には日銀口座の預金残高(上図でいう日銀当座預金残高)を、上図のとおり①基礎残高:0.1%②マクロ加算残高:0.0%③政策金利残高:-0.1%と3段階に分け、それぞれ異なる金利を設定しました。なお、今回の政策変更による新しい金利の適用は、2016年2月16日からとなります。

①基礎残高とは、民間の銀行がこれまで日銀口座に預けてきたお金のうち所要準備額を超える金額、超過準備額です。既存の超過準備額(正確には2015年1月~12月までの平均残高)に対しては0.1%の金利が継続されます。②マクロ加算残高とは、所要準備額、日銀が特別にゼロ金利で一般の銀行に貸し出す金額(貸出支援基金および被災地金融機関支援オペ)、日銀が一定の計算により適宜加算する金額の3つが対象で、これらの残高についてはゼロ金利が適用されます。そして、日銀口座の預金残高から①、②を除いた金額(政策金利残高)に対して-0.1%の金利が導入されます。

日銀の当座預金残高はというと、現在おおよそ250兆円、そのうち①が210兆円程度、②が40兆円程度ですので、現在時点ではマイナス金利が適用される部分は殆どない(数兆円程度)というイメージです。ですので、「マイナス金利導入!」と言っても、目先で劇的な変化が起こるわけではないのです。

※日銀が、2月3日に追加したQ&A(8)によれば、①は基礎残高220兆円ー所要準備額9兆円≒210兆円、②所要準備額9兆円+貸出支援基金および被災地支援オペ30兆円+日銀裁量加算額0兆円≒40兆円としており、仮に2016年2月16日時点で当座預金残高が260兆円だとすると、マイナス金利の適用額は260兆円ー210兆円ー40兆円≒10兆円という資産をしています。なお、基礎残高・所要準備額はこちら、貸出支援基金はこちらこちらでそれぞれ数字を確認できます(すべて日銀HPより)。

 

ですが、そんなに楽観視できる話でもありません。少し話が飛びますが、公定歩合という言葉をご存知ですか?以前、日銀が金融政策で利用していた政策金利ですね。少し前までは、日銀は公定歩合をコントロールすることで物価の安定を達成しようとしていました。が、今は違います。最近の日銀は政策手段を公定歩合ではなく、「世の中に出回っているお金の合計」+「日銀当座預金残高」の合計(これをマネタリーベースと言います)としており、2016年はマネタリーベースを80兆円増やすことを目標としています。

ただし、日銀は個人や企業に直接お金を貸していないため、世の中に出回るお金を直接増やすことはできず、従って、このマネタリーベースを年間80兆円増やすためには、日銀の当座預金残高を80兆円増やすしかありません。では、どうやるのでしょう??答えは、銀行や証券会社から80兆円規模の国債等を買い取り、支払代金を彼らの当座預金に入れることで実現しているのです(ちなみに、証券会社などは準備預金制度の対象となっていないため、当座金にお金を積んでも金利がつきません。ですので、証券会社はそのお金を銀行に短期で貸し出して、銀行の当座預金に置いてもらっています)。

もう少し込み入った話をしましょう。マイナス金利が適用されると、苦しいのは銀行ですね。それなら銀行は当座預金からお金を引き出して、銀行内で現金を保有していれば良いのでは?と思うかもしれませんが、そこは日銀が逃しません。もしも銀行が大量に現金を保有した場合は、それに見合う金額を①の基礎残高から差し引く(実質的に銀行内で大量に保有した金額に対して-0.1%の金利とする)こととしています。

※日銀が2月3日に追加したQ&A(8)によれば、マネタリーベースは年間80兆円、3カ月で20兆円増えるため、3カ月後には当初のマイナス金利適用10兆円+マネタリーベース増加額20兆円=30兆円となりますが、ここで日銀の裁量で決めるマクロ加算額を20兆円増やせば、マイナス金利適用額は10兆円にとどまると説明しています(もちろん、設例はサンプルケースであり、実際には市場を見ながら政策委員会で決めるとしています)。

→銀行収益に相当配慮している内容で、実際に設例のような決定がされる場合は、マイナス金利適用額(政策金利残高)が大幅に増加する可能性は低いと考えられます。

 

では、2016年に日銀当座預金残高が80兆円増えた場合、マイナス金利の銀行収益へのインパクトはどのくらいかというと、下の表をご覧ください。

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現在の①基礎残高を210兆円、②マクロ加算残高を40兆円、③を0円とした場合、銀行の平均金利は0.08%、2016年末は日銀の政策目標のとおり当座預金残高が80兆円増え、①210兆円、②40兆円、③80兆円になったと仮定した場合、年末の平均金利は0.04%ですので、年間の平均としては0.06%程度の金利が付くことになります。つまり、今回の日銀のマイナス金利は、2016年の効果に限って言えば、実質的には当座預金残高に対する金利を0.1%→0.05%に引き下げた効果とほぼ同じなのです。

※日銀が2月3日に追加したQ&A(8)の設例どおりの場合、当初の政策金利残高は10兆円/260兆円程度、2016年末の同残高は10~30兆円/330兆円となり、2月時点で0.078%、年末時点で0.061%となり、年平均0.07%程度の金利収入が期待できます。

ここがミソなのです。もしも今回の日銀の政策変更において、0.05%の当座預金金利の引き下げでしたら、金融市場では政策に対する物足りなさが高まったでしょう。特に、サプライズ大好きな黒田総裁が、そんな平凡な策を講じてしまった時には、市場の失望感は相当なものになっていたかもしれません。そういった意味では、今回の黒田総裁はうまくやったなと思います。

また、黒田総裁は更なるマイナス金利の引き下げについて言及しましたが、マイナス金利を引き下げれば引き下げるほど銀行の収益は悪化します。ですが、銀行の体力がなくなり、リスクが取れなくなって更に貸出が縮小してしまったら意味がありません。ですので、仮に更に金利を引き下げる場合は、黒田総裁は銀行収益にも引き続きしっかりと配慮するのではないでしょうか。先ほどの

>②マクロ加算残高とは、所要準備額、日銀が特別にゼロ金利で一般の銀行に貸し出す>金額、日銀が一定の計算により適宜加算する金額

において、②マクロ加算残高の対象項目である日銀が一定の計算により適宜加算する金額は、日銀が自らの判断で、マイナス金利適用金額のうち一定程度をゼロ金利の適用金額に振り替えることができるということです。ですので、仮に「③の金利を-0.1%→-0.5%にする!」と決めたとしても、同時に「②の加算額で100兆円分のゼロ金利枠を拡大する!」と言えば、実質的に銀行に与える効果は、今回と同様あまり大きくないものにコントロールが可能なのです。

※実際、日銀が2月3日に追加したQ&A(8)の設例のとおり、日銀の判断により銀行への悪影響を配慮した運営となりそうです。

 

最後に、黒田総裁は、今回のマイナス金利付き量的・質的金融 緩和の開始により、今後は、「量」・「質」・「金利」の3次元での緩和が可能と説明しています。

量:マネタリーベースを年間〇〇兆円増やす政策(2016年は80兆円)

 →追加緩和策としては80兆円から100兆円に増額、ETFを年3兆円から5兆円に増額等

質:国債買入年限のコントロール、社債買入、ETFJ-REITの買入

 →国債買入年限の長期化(より長い債券を購入)、地方債、政保債の購入等

金利マイナス金利の導入

 →マイナス金利の更なる引き下げ等

ですが、量に関しては日銀がたくさん買入れした結果、市場に流通している国債の量が激減してしまっていることから限界が近いことや、マイナス金利もここからの更なる引き下げは銀行収益を圧迫するため、実際にはなかなか踏み切れないのではないか(踏み切ったとしても、マクロ加算額との調整が前提か)と思われることなど、追加緩和についてはその実現性・実効性について懸念点が少なくありません。

まだ切り札として残されているのが、ETF日本株)の買い入れ。こちらは日銀残高が10兆円にも満たないため、増額することは可能だと思います。ただし、世界を見渡すと、マイナス金利は欧州を中心に多くの主要国で実施されていますが、株(ETF)を買っている主要中銀は私の記憶では日銀くらいだと思います。もし日銀が買った株(ETF)が下落して損を出したらどうするのでしょうか。税金による損失補てんとなるでしょう。

と考えますと、今後も日銀がETF買入れを大幅に増額するというのは、なかなか難しい政策判断ですね(景気の減速や物価が上がらない状況が続き、近い将来に追加緩和期待が高まったとしたら、次の追加緩和ではETFの増額はメインシナリオな気がしますが…)

以上、日銀のマイナス金利政策について少し突っ込んで説明してきました。最後までご覧いただきまして、ありがとうございました。

 

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