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【トピックス】日銀マイナス金利で円安が進行! 果たして円は割安?割高? 実質実効為替レートで読み解く FXプレイヤー必見!

こんにちは、STAMです。今日は日銀のマイナス金利導入によって大きく動いた為替相場について見ていきましょう。日銀の決定まではドル円相場は1ドル=117-118円台で推移していたわけですが、日銀のマイナス金利導入を受けて大幅に円安、1ドル=121円台まで円安が進行しました。果たして今の日本円は割安なのでしょうか、割高なのでしょうか。考えていきたいと思います。

 

★今回のエントリーの反響が大きかったため、FX投資家向けの記事を新規にエントリーしました。是非ご覧ください。(2016/2/5更新)

 

1.なぜ日銀のマイナス金利導入で為替相場では円安が進行したのか?

日銀のマイナス金利導入によって為替相場では大きく円安が進行しました。なぜでしょう。

為替市場は世界の投資家が参加する市場であり、米ドル、ユーロ、円などは特に取引量が多く流動性が高い通貨です。BIS(国際決済銀行)によると、1日の為替取引(直物取引)は200兆円を超す規模とのことです。最近の日本株式市場の1日の売買代金が3兆円程度であることを考えると、為替市場がいかに大きい市場であるかがわかります。

(参考)BIS:Foreign exchange turnover in April 2013: 

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為替市場ではこのようにたくさんの取引が行われていますので、それだけ為替の変動要因もたくさんあり、ある時はA要因が強くて為替が上昇したかと思えば、明日にはB要因によって下落した、今度は、C、D、E…といった具合ですから、為替市場を見る上では、今、市場参加者がどの要因に最も注目しているのかをしっかりと捉えるのがとても重要です。

ただ、それらの要因の中でも影響度の大きいものがあり、その代表的なものが「短期金利」です。少し難しい話になりますが、通貨には必ず金利がつきものです。具体的に外貨預金でイメージしてみましょう。例えばブラジルレアルの外貨定期預金のレートはソニー銀行ですと7%付きます(詳しくはブラジルレアル|外貨預金の金利一覧|MONEYKit - ソニー銀行)。もちろん為替の変動リスクを負うことにはなりますが、円をブラジルレアルに交換することで、円の(短期)金利(銀行預金金利なので0%に等しいですが)を失う代わりに、ブラジルレアルの(短期)金利を手に入れることができます。ソニー銀行の例でいけば、仮にブラジルレアル円の為替相場が変動しなければ、7%の利子収入を獲得することが出来るわけです。

日本ではマイナス金利日銀当座預金残高に導入されたことで、市場金利は全体的に低下しました。特に短期ゾーンの金利は2月1日時点で2年金利が-0.15%とマイナス幅が大きくなっています。そうなってくると、円に置いておいたらマイナス金利で損をすると考える投資家が増え、それなら金利の高い他の通貨に替えようという動きがでます。巷で言われているキャリートレード(低金利の通貨を売って高金利の通貨で運用すること)ですね。ということで、為替市場では日銀のマイナス金利を受けて素直に反応し、大幅に円安が進行したわけです。

 

2.それで、ドル円は121円まで来たけど、円はまだ割安なのか?もう割高なのか?

念のために言及しておきますと、通貨自体には価値はありません。株式の場合は会社の一部を保有していることとなりますし、債券の場合は償還時には貸した金額が返還されますので、その資産自体に価値が存在しますが、為替はあくまで通貨のペアですので、相対的な価値を図る物差しでしかありません。具体的には、現在は1ドル=120円程度ですが、現在が1ドル=240円あたりで動いていたとしても、別にどちらでもいいということです。相対価値ですから、現在のレートが過去と比べてどう変化したかが重要であり、120円や240円などといった水準自体には意味がないのです。

そして、為替市場にはたくさんの通貨ペアがあり、ひとつの通貨ペアだけを見て通貨の割高・割安を判断することは難しいことです。例えば米ドル円で見た場合、円安ドル高が続いていれば「円は安くなったな」と感じるかもしれませんが、もしかするとユーロやポンド、オーストラリアドルなどの他通貨に対しては、ドルも円もどちらも上昇しているかもしれません。その場合、円はむしろ高くなったと言えます。

では、円を対ドルだけではなく、対ユーロ、対ポンド、対オーストラリアドルなど幅広い通貨も含めた水準で評価する方法はないのでしょうか?それであれば、真に円が割高なのか割安なのかがわかります。実はあります、それが実効為替レートです。

 

3.(名目)実効為替レート((Nominal) Effective exchange rate)

実効為替レートとは、特定の通貨について1つの通貨ペアとしてではなく、幅広い通貨に対して相対的に割高・割安を示すものです。具体的には、日本円の場合、円とその他の米ドルやユーロなど幅広い通貨の通貨間の為替レート(つまり、ドル円やユーロ円)を両国の貿易取引量で加重平均したものを集計して計算します。こういった計算により、特定の通貨の価値を見ることが出来ます。ただし、この実効為替レートには名目つまりインフレが考慮されていない数値であり、インフレを考慮したレートが実質実効為替レートになります。

 

4.実質実効為替レート(Real Effective exchange rate)

特定通貨の割高・割安を判断するには実質実効為替レートに注目しましょう。先ほどの実効為替レートでは、幅広い通貨に対する特定通貨の割高・割安を見ることができましたが、この実効為替レートにインフレ分を考慮したのが実質実効為替レートになります。では、なぜインフレの考慮が必要なのでしょうか。

ドル円を例に考えてみましょう。1ドル=100円、日本のインフレ率が2%、米国のインフレ率が0%とします。この場合、1年後のインフレを反映された両通貨の価値は、1ドル×(1+0%)=1ドル、100円×(1+2%)=102円 とドルは変わらず、円は2円増加しています。仮に1年後の為替レートが1ドル=102円だとすれば、1年分のインフレが考慮された為替レートになっていますのでインフレ調整は不要ですが、仮に1年後の為替レートが1ドル=100円のままだとすれば、手元に102円あるけど、100円で1ドルが手に入るわけですから、円が2円分強くなっていると言えます。つまり2円分の円高となるわけです。この2円分の円高を実効為替レートを計算する際に考慮したのが、実質実効為替レートなのです。

 

5.実質実効為替レートを通貨別グラフで確認

それでは、実際に各通貨の実質・名目実効レートおよび主要通貨ペアのグラフを見てみましょう。2000年末を100としたグラフです。ちなみに実効レートはBISのHPから取得できます。Effective exchange rate indices

 

◆日本円

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これを見ると、円はかなり安い水準まで来てますね。〇印をつけた箇所は、2015年6月に日銀の黒田総裁が、「ここからさらに実質実効為替レートが円安に振れるということはなかなかありそうにない」と発言したタイミングです。確かに黒田総裁の言うとおり、足元ではかなりの円安水準にあります(ただ、グラフの起点を10年、20年とさかのぼってみると見え方も変わってくるかもしれません→と言っても、最近の為替の動きを見るという意味では上図程度の期間が妥当でしょう)。そして、グラフは2015年12月までですが、先月末にはマイナス金利導入により円安が進行しましたので、再びグラフは下へ反落しているのでしょう。

現在の円市場を取り巻く環境は、米国の利上げもペースこそゆっくりになりそうですが引き締めサイクルにある中で、日銀はマイナス金利を導入していますので、金利差の観点から円安ドル高圧力がかかりやすいと言えます。ただし、実質実効為替レートの観点からは、ここから更なる円安の進行は限定的とみられ、また中国や米国の景気減速による世界景気全体の後退懸念が高まる場合は、リスクオフの円買いが進行する可能性があり、円が上昇するリスクにも十分注意を払う必要があると考えます。

 

◆米ドル

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米ドルです。面白いのは、2000年代の米国はドル高志向でしたが、実際には実効為替レートは概ね下落基調で推移していたということです。実際、この期間は円安ドル高が進行しましたが、それ以上にユーロ高が進行しましたので、実効為替レートとしては下落となりました。また、2014年末からは利上げ期待の高まりなどから急速に上昇しています。

◆ユーロ

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ユーロは、リーマンショックまでの景気拡大局面においては、上昇基調でした。その後は欧州危機などで軟調な展開となり、直近では複数回の追加緩和政策によって下落基調が続いています。ただ、2000年末と比較すると、実質実効レートでみてもプラス圏にいるのですね。

 

◆英ポンド(グラフのみ)

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オーストラリアドル(グラフのみ)

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6.終わりに

以上、最後は実質実効為替レートに焦点をあてて解説してきました。なお、実際に為替取引を行う場合は、この他にも、プロが必ず確認する基本的事項がいくつか存在します。FXプレイヤーの方にも参考になると思いますので、また別の機会でご案内します。

 →2016/2/5更新:早速エントリーしましたのでご覧ください。

では、最後までご覧いただきありがとうございました。

 

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STAM