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【トピックス】日銀、貸出支援基金の貸出金利をマイナスに? -日銀配慮で銀行収益改善期待高まるが、借手問題も-

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 みなさんこんにちは、STAMです。本日は、昨日(4/22)のニュース「日銀:金融機関への貸し出しにもマイナス金利を検討」について、以下のブルームバーグ記事を見ながら、簡単に解説しておきたいと思います。

 

ます、貸出支援基金とは何でしょうか。記事からの引用です。

日銀は成長基盤強化と貸し出し増加に向けた取り組みを支援するため、貸出支援基金を設けて金融機関に対して現在0%で資金供給を行っている。

 

なるほど。それでは、さらに貸出支援基金について詳しく見ていく前に、現在の日銀金融政策における日銀当座預金の金利について確認しておきましょう。よく耳にする「マイナス金利」についてのことです。

従来、日銀は民間銀行が日銀の口座(当座預金口座)に預ける金額に対して+0.1%の金利を付けてきました。しかし、2016年1月の日銀会合で当座預金に対する金利が3段階に分けられ、そのうち1つが-0.1%となりました。これがいわゆるマイナス金利の導入です。そして今回の記事に関連しているのが、2段目「マクロ加算残高」の②貸出支援基金です。

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では、貸出支援基金について、もう少し詳しく見ていきましょう。貸出支援基金には、「成長基盤強化を支援するための資金供給」と「貸出増加を支援するための資金供給」のふたつがあります。参考程度に以下、日銀引用です。

成長基盤強化を支援するための資金供給(2010年<平成22年>6月導入)

金融機関が成長基盤の強化に向けた取り組みを進めるうえでの「呼び水」としての効果を発揮する狙いから、わが国経済の成長に資する融資・投資を行う金融機関に対し、その内容を個別に確認したうえで、日本銀行が低利かつ長期の資金を供給する枠組みです。←残高5兆円程度

 

貸出増加を支援するための資金供給(2012年<平成24年>12月導入)

金融機関の一段と積極的な行動と企業や家計の前向きな資金需要の増加を促す観点から、貸出残高を増やした金融機関に対し、希望に応じてその増加額の2倍相当額まで、低利かつ長期で資金供給する枠組みです。←残高25兆円程度

 

では記事に戻りますが、今回の記事では日銀が政策金利マイナス金利幅拡大する場合に、貸出支援基金の貸出金利をマイナスにすることを検討する可能性があると言っています。以下、記事の引用です。

複数の関係者によると、今後、日銀当座預金の一部に適用している0.1%のマイナス金利政策金利)を拡大する際は、市場金利のさらなる引き下げを狙って、貸出支援基金による貸出金利をマイナスにすることを検討する可能性がある。

 

では貸出支援基金による貸出金利を確認しましょう。貸出金利マイナス金利導入前までは+0.1%(従来の当座預金金利と同じ)でした。それが、マイナス金利導入時に0.0%に引き下げられました。

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つまり、貸出支援基金による調達コスト(貸出金利分のコスト)を日銀当座預金金利で相殺するイメージです。

 

繰り返しになりますが、記事によると今月末の日銀政策決定会合では、マイナス金利幅を拡大する場合、貸出支援基金の貸出金利もマイナスにすることを検討する可能性があるとのことです。これが意味することは何でしょうか。一言で言えば「銀行収益への配慮」でしょう。

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実はこれ、先月にECB(欧州中央銀行)で導入されています。以下、記事引用。

マイナス金利での貸し出しはいわば日銀による金融機関へのボーナス。こうした政策に関心が広がっている背景に欧州中央銀行(ECB)の決定がある。ECBは3月10日の理事会でマイナス金利を0.3%から0.4%に拡大。同時に、これによる銀行収益の圧迫懸念に配慮し、ベンチマーク対比で貸し出しを増やした銀行に、その程度に応じてECBからの貸し出しに最大マイナス0.4%まで金利を付与することを決めた。

 

銀行収益という話では、先日、MUFG平野社長が日銀のマイナス金利政策について批判したというニュースがありましたね。こちらです。

 

上記事の数日後に今日のニュースですから「日銀は銀行に迎合したのか?」と思う方もいるかもしれません。ただ、今回の貸出支援基金のマイナス金利案は、すでに市場の一部では予想されていました。ご案内のとおり、銀行にとって非常に都合のよい内容ですので、金融機関、市場ともすんなり受け入れられる政策だという評価です。

 

株式市場にもプラスでしょう。足もとの株安は円高による輸出企業の下落もそうですが、マイナス金利による収益悪化が懸念された銀行株の低調さも大きく影響しています。今日のニュースが伝わってから銀行株は軒並み上昇となり、政策期待感から株高・円安が進行しています。

 

ただ、あまり楽観視もいけません。なぜなら、日本において銀行貸出が増えないのは金利水準が原因ではなく、需要不足が原因であるからです。日本全体の預貸率は6-7割といったところで、3-4割は貸出先がない状態です。記事でもその点について言及されています。

 UBS証券の青木大樹シニアエコノミストは「そもそも企業の借り入れ意欲自体が弱い。企業が借り入れをしようとしなければ、銀行としても貸し出し先がない。経済への影響は限定的だろう」と指摘。日銀が単独で政策対応しても、成果を得るのは難しく、「補正予算や成長戦略といった形で需要を作る政策と組み合わせないと効果は出てこないだろう」としている。

 

 まさにそのとおりでしょう。結局は金融政策だけでは限界があり、財政政策、成長戦略がカギを握っています。現在のアベノミクスはそのほとんどがクロダノミクス、金融政策で説明できるものです。「意味のある、かつ実効性に伴う財政政策」「長期的ビジョンに基づいた成長戦略」が伴わない限りは政府・日銀が期待する経済成長は難しいでしょう。安定政権なのですから、3万円を配るといった場当たり的な(選挙対策ともとられる)政策ではなく、長期的な成長のための施策について本気で取り組んでほしいところです。

 

最後までご覧いただき、ありがとうございました。

 

 STAM

 

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