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【保存版】【トピックス】日銀量的緩和の国債買入は限界が迫る!?  日銀の金融政策の過去と現状をわかりやすく解説

こんにちは、STAMです。今回はトピックスとして、マイナス金利導入で注目をあつめる日銀の金融政策を取り上げます。2016年1月にマイナス金利を導入した日銀ですが、その政策手段はここ20年程度で非常に変化してきています。今回は、皆さんに聞き覚えのある「公定歩合」から「量的緩和」「マイナス金利」まで、金融政策を過去から丁寧に振り返るとともに、現在のマイナス金利付き量的・質的金融緩和政策の現状と課題についてご案内します。

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<今回のブログのポイント>

  • 日銀の金融政策は長らく公定歩合や無担保コールなどの金利目標であったが(除く2001年ー2006年)、2013年4月に量目標に変更されて以来、圧倒的規模の資産買入を行う量的金融緩和政策が実施されている
  • 日銀の国債保有残高は33%程度。残高が年間80兆円増加するように国債買入を行っており、このまま行くと日銀の国債保有比率は毎年9%程度上昇し、特に残存の短い債券については、近い将来、その大部分を日銀が保有する状況となる
  • 日銀の圧倒的規模の国債買入により、国債市場の流動性は大幅に低下。今後も同様のペースでの買い入れは難しいため、何らかの政策変更が必要になるだろう

 

1.過去の金融政策の振り返り -公定歩合・無担保コール・量的緩和

 現在の日銀の政策について確認する前に、過去の日銀の金融政策について確認しましょう。下図をご覧ください。

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(1)~1995年3月:公定歩合金利目標)

今の現役世代や老後世代の方は、日銀の政策金利と言えば公定歩合のイメージが強い方が多いのではないでしょうか。実際、日本では政策金利として長らく公定歩合が用いられてきました。公定歩合とは日銀が金融機関に貸付を行う際に適用される金利のことです規制金利時代には、預金金利等の各種の金利が「公定歩合」に連動していたため日銀は公定歩合の操作により世の中の金利水準に影響を与えていました。しかし、1994年に金利が完全自由化されたため、公定歩合と預金金利との連動性は薄れ、公定歩合の操作により世の中の金利に影響を与えることが難しくなりました。

(2)1995年3月~2001年3月:無担保コール翌日物金利金利目標)

無担保コール翌日物金利とは、金融機関間における短期資金の貸し借りを行う市場(=コール市場)において、無担保で短期資金を借りて翌日返済する取引の際の金利のことを言います。金利自由化により公定歩合と銀行金利の連動性が薄れたため、日銀は金融政策の誘導対象を公定歩合から金融機関の資金調達市場であるコール市場に変更しました。日銀は、民間金融機関の保有する国債や手形を売買(買いオペ・売りオペ)する公開市場操作により、民間金融機関の資金需要をコントロールすることで、政策金利である無担保コール翌日物金利を目標水準に誘導しました。

また、1990年代後半にはバブル崩壊の影響を受け低調に推移する国内景気や急騰する長期金利などへの対応策として、日銀は1999年2月に無担保コール翌日物金利を史上最低の0.15%に誘導することを決定しました。その際、速水日銀総裁が「ゼロでも良い」と発言したためゼロ金利政策と呼ばれました。その後2000年8月には同金利の誘導目標0.25%に引き上げたことで、ゼロ金利政策は解除されました。しかし、2001年3月には国内・海外の経済環境悪化を受けて、再び2001年2月に同金利を0.15%、翌3月には量的緩和政策を導入し事実上のゼロ金利政策が復活しました。

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 (出所:日銀)

(3)2001年3月~2006年3月:日本銀行当座預金残高(量目標)

2001年3月、日銀は金融政策を従来の金利目標(公定歩合無担保コール翌日物)から量を目標とする「量的緩和政策」に変更しました。具体的には、日銀は当座預金残高(民間金融機関が日銀内に保有する預金口座)を一定額増加させていくことを目標とし、前年比のインフレ率が安定的にゼロ%以上となるまで量的緩和政策を継続することとしました。2006年3月に解除されるまで、およそ5年間にわたり量的緩和政策が実施されました。

(4)2006年3月~2013年4月:無担保コール翌日物金利金利目標)

2006年3月に量的緩和政策が解除され、再び無担保コール翌日物金利をコントロールする金融政策となりました。一方、2008年の金融危機以降、世界的な景気後退から世界各国では積極的な金融緩和政策が実施され、米国では量的緩和政策が導入されました。日本においても2010年10月に包括的金融緩和策が導入され、金融政策を引き続き金利目標としつつも、資産買入等の基金を創設し積極的な国債等の買入を実施することで、金融緩和を一段と進める政策が行われました。

(5)2013年4月~2016年1月:マネタリーベース(量目標)

2013年3月20日に黒田総裁が就任すると、2013年4月4日の就任初回の金融政策決定会合で「量的・質的金融緩和」の実施を決定しました。従来の金融政策は金利無担保コール翌日物)をコントロールしていましたが、黒田総裁は金融政策をマネタリーベース、つまり量のコントロールに変更し、前年比のインフレ率+2%を2年以内に早期実現することを掲げました。日本では2006年以来の量的緩和政策の導入となりましたが、当時に比べ量目標の規模が圧倒的(年間60兆円~70兆円増加)であったことから、金融市場では期待インフレが高まり株高・円安が進行しました。

(6)2016年1月~:マネタリーベース(量目標)(+当座預金金利金利目標))

2016年1月末、日銀はマイナス金利付き量的・質的金融緩和政策」の導入を決定しました。引き続きマネタリーベースの増加を政策目標としつつも、より大胆な金融緩和策として当座預金残高の一部に対してマイナス金利を適用することで、市場金利水準を引き下げることを狙いとしています。当座預金金利のコントロールが導入されたことで、事実上、量・金利の両面からのコントロールする政策となりました。なお、マイナス金利導入により金利水準は大幅に低下し、2016年2月26日時点では10年金利は-0.065%、5年金利は-0.22%程度となっています。

(参考)各時点の金利水準

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2.日銀の量的緩和政策(資産買入)の拡大推移

 それでは本題の日銀の資産買入についてみていきましょう。ご案内のとおり量的金融緩和は2001年~2006年と2013年~現在で導入されていますが、特に2013年からの量的緩和(+2010年からの資産買入基金)に注目していきます。

(1)2001年3月~2006年3月

2001年3月より量的緩和政策が導入され、おおよそ5年間にわたり同政策が継続されました。この時期の量的緩和政策については詳細は割愛しますが、財務省より同政策の考察レポートが発行されていますので、ご案内します。

https://www.mof.go.jp/pri/publication/financial_review/fr_list5/r99/r99_059_081.pdf#search='%E9%87%8F%E7%9A%84%E7%B7%A9%E5%92%8C+2000%E5%B9%B4'

またレポート内には、同期間における量的緩和の拡大推移表がありますので、抜粋して掲載します。

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(2)2010年10月(包括的金融緩和)~2013年4月(量的・質的金融緩和)~現在

資産買入については、2010年10月の包括的金融緩和策における資産買入基金に始まり、2013年4月の量的・質的金融緩和政策では圧倒的な買入規模に拡大しました以下の表で買入額拡大の推移を確認しましょう。

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f:id:STAM:20160228194916p:plain2つの表を比較すると、2013年4月に導入した量的・質的金融緩和における国債買入額の規模が圧倒的であることがわかります。2013年4月時点では、日銀の国債保有額が年間50兆円増加するペースで買い入れを実施、2014年10月には年間80兆円増加するペースで買い入れを実施することを決定しました。なお、実際には保有国債の償還がありますので、グロス(総額)では120兆円程度の買い入れが必要です。ご参考まで、2016年2月23日時点の年限別の日銀保有残高です。毎年30兆円程度の償還が控えています。(出所:日銀、財務省

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3.日銀国債買入の国債市場への影響

現在、日銀が圧倒的規模で国債買入を実施していることがおわかりいただけましたでしょうか。ここでは日銀の買入規模が債券市場においてどの程度のインパクトを持つものなのか見ていきましょう。

(1)国債保有者の変化

まずは、国債および国庫短期証券の保有者の変化を以下の表で確認しましょう。

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この表から読み取れるポイントは以下のとおりです。

  • 日銀は2013年4月からの量的緩和開始により国債保有率が大きく上昇
  • 日銀比率の高まりに伴い銀行等(含む信託銀行、証券会社)の比率が低下。銀行等は市場の流動性を供給する主体でもあり、同主体の保有比率低下は市場の流動性低下につながる
  • 生損保・年金勢は長期運用主体であり国内外の複数資産で運用しているため、基本的には保有比率は安定傾向
  • 海外勢は世界的な低金利を背景に、ヘッジコスト考慮後リターンとして相対的に魅力が高まった日本国債を購入する動き

 

(2)日銀の国債保有額

日銀は国債発行額のうち約3割を保有していることがわかりましたが、もう少し詳しく、日銀の保有する国債の種類や残存期間別に見てみましょう。まずは種類別です。ご覧いただきますと、2年債・5年債は既にほぼ半分を日銀が保有していることがわかります。

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次に年限別(償還までの期間別)です。やはり残存10年以下の債券の保有比率が高いことがわかります。

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(3)国債発行額に占める日銀の買入比率

それでは、2016年度の国債発行予定額と日銀の買入予定額についても確認しましょう。

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上図のとおり、日銀は国債買入オペにより年間の国債発行額をほぼ同額を市場から買い上げています。短い年限においては国債発行額を上回る買入オペを行っており、短い年限を中心に国債市場の流動性が枯渇してしまっていることが想像できます。

(4)参考:現在の金融政策下における国債市場

現在の金融政策における国債市場は一言でいうと❝日銀ゲーム❞という表現が適切かもしれません。国債発行額とほぼ同額規模を日銀が買ってくれますので、安く買っていかに日銀に高く買ってもらうかがポイントです。

①金融機関は国債入札で国債を落札する

②金融機関は落札した国債を日銀買入オペに入札する(日銀は大量の国債を買入れる)

③日銀の国債保有率が増加する(金融機関は国債売却代金を日銀当座預金で受け取る)

④マネタリーベース(当座預金+現金通貨(紙幣+硬貨))が増加する

 

4.資産買入規模に関する国際比較 -米国(FRB)、ユーロ圏(ECB)-

大規模な量的緩和政策を実施したorしている代表的な中央銀行として、米国(FRB)、ユーロ圏(ECB)が挙げられます。3中銀の比較をしてみましょう。 

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中央銀行のバランスシート(B/S)規模を各国のGDP規模、政府債務規模と比較しています。量的緩和実施下における中央銀行のバランスシートは、その大部分が資産買入額となりますので、ここでは買入額の代替としてバランスシートを用いています。

グラフのご覧いただきますと、日銀の買入規模がFRB、ECBに比べて大きいことが分かります。特に対GDP比では約76%と非常に高い水準となっています。更に日銀はマネタリーベースが年80兆円増加するペースで買い入れを継続していますので、今後も同様の政策が継続されるのであれば、1年半後には日銀BS規模は対GDP比で100%を突破するでしょう。

5.日銀は国債買入を継続できるのか

 ここまで見てきてお分かりのとおり、日銀の国債買入は相当なペースで進んでおり、今後も同様のペースで買い入れを継続することは難しくなってきています。黒田総裁は、「日銀は国債の1/3しか保有しておらず、まだ市場には2/3もある」と繰り返し発言していますが、残りの2/3のうち実際に流動性のある残高はどの程度でしょうか。

既にご案内のとおり、生損保・年金基金の国債保有比率は30%程度を占めていますが、こちらが大きく低下することは見込みにくいでしょう。銀行等は担保として国債を保有している割合が相当程度ありますが、こちらは2015年12月の日銀の金融緩和補完措置にて住宅ローン受益権を担保として認める概要を発表しており、こちらのスキームが進展すれば、国債売却に多少の余裕が生じるでしょう。

ですが、どちらにしても日銀はマネタリーベースが毎年80兆円増加するように国債等の買い入れを実施するわけですので、今後も現在の買い入れペースが変わらないと仮定した場合、日銀の国債保有比率はざっくりと毎年9%程度上昇していくことになります。特に残存の短い債券は数年以内に殆どが日銀保有になることが見込まれます。そんな市場環境において流動性は保たれるのでしょうか?そもそも、国債入札や日銀買入オペに札割れは起こらないと言えるのでしょうか。

黒田総裁は強気姿勢を崩しませんが、現在のマイナス金利付き量的・質的金融緩和政策の下で、量の拡大=国債買入額の増加は既に限界近くまできており難しい状況と言えます。近い将来、量の目標を断念し金利目標へシフトすることが予想され、今回のマイナス金利の導入はその布石と考えるのが妥当でしょう。

また、国債以外の買い入を実施するという案もあります。例えば、地方債、政府保証債などですが、市場規模が国債に比べ小さいこともあり、効果は限定的でしょう。また、既に買入を行っているETFについては、既に年間3兆円増加するペースで買い入れを行っているため、更にどこまで踏み込めるかというところでしょう。満期まで保有すれば額面で償還される債券と異なり、元本の保証がない株式の買い入れを積極的に行っている主要中銀は日銀くらいで、株式の購入には距離を置いている中銀が多数派です。個人的には、次の緩和はETFの増額を予想していますが、材料出尽くしの反応になる可能性もあり注意が必要と考えています。

6.まとめ

今回は日銀の金融政策について、過去の金融政策の振り返りから現在の金融政策、特に国債買入について詳しく見てきました。最後までご覧いただき、ありがとうございました。

 STAM

 

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