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【トピックス】実質賃金は4年連続のマイナス。なぜ企業は最高益なのに、賃金は増えないのか?

こんにちは、STAMです。今日は厚生労働省が8日に発表した賃金に関する統計に迫ってみましょう。

<今日のブログのポイント>

  • 実質賃金とは、実際の賃金(名目賃金)をインフレ率で割ったもの。4年連続どころか、1997年からずっと低下基調。
  • ただし、これはパートタイム労働者の拡大による影響が大。フルタイム・パートタイム別に見ると下がり続けてはいないが、20年間ほぼ横ばい。
  • 企業は最高益なのに賃金が増えないのは、企業トップが雇われ経営者であることが一因。彼らは株主に報いることが第一であり、利益を減らす賃金Upには後ろ向き。

 

 

1.実質賃金とは

まず、実質賃金について確認しましょう。実質賃金とは簡単に言うと、毎月の給与(残業込)+ボーナスをインフレ率で割ったものです。インフレ率で割るとは、どういう意味でしょうか?具体例でみてみましょう。

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2020年の名目賃金①が500万、翌年2021年は540万だったとします。この場合、名目賃金は8%Upですね。ちなみに、「名目」とは"そのままの金額″という意味です。さて、物価②を見てみましょう。物価②は2020年が100%、2021年は110%となった場合、物価上昇=インフレ率は10%です。その結果、実質賃金(①/②)は2020年の500万が2021年には491万となり、2020年よりも減っています。確かに2021年は名目賃金は8%上昇しましたが、インフレ率10%が賃金上昇を上回ったためです。この実質賃金が4年連続のマイナスということになります。では、実際の名目賃金実質賃金の推移を見てみましょう。なお、以下のデータはすべて厚生労働省毎月勤労統計調査から取得できます。

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いかがですか?これを見て驚きませんか?ニュースでは実質賃金は4年連続のマイナスとありますが、実は日本では1997年をピークとして、名目賃金実質賃金ともにずっと減少してきていたのです。消費が伸びないわけです。

ですが、この期間は団塊の世代の退職なども含まれていますし、働き方が多様化した期間でもあります。では、もう少し細かく見ていきましょう。まずは雇用者数と労働時間についてです。

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なるほど、労働時間は低下し、雇用者数は伸びています。では、雇用者数をフルタイム労働者とパートタイム労働者に分けてみてみましょう。

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実は、フルタイム労働者の総数はこの25年間でほとんど変化しておらず、パートタイム労働者だけが大きく伸びていることがわかります。つまり、先ほどの雇用者数と労働時間のグラフで、雇用者数が上昇し、労働時間が減少していたのは、パートタイム労働者の増加による影響が大きいと言えます。それでは、フルタイムとパートタイムの賃金の比較をしてみましょう。

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 これを見ると、確かにここ数年はフルタイム賃金、パートタイム賃金(どちらも名目賃金)とも上昇傾向にはあります。ただし、統計開始の1993年を起点とすれば、この25年弱でほとんど伸びていないと言えます。確かに日本ではデフレの期間が長く続きましたので、名目賃金が上昇しなかったことも納得いきます(デフレ状況下であれば、名目賃金が上昇しなくとも、物価が下落するため、実質賃金は上昇することになるため)が、足元ではじわじわとインフレが進む中でも、名目賃金の伸びは緩慢であり、結果として実質賃金は減少してしまっているわけです。

 

2.インフレ率

ここ2-3年の名目賃金実質賃金のかい離が目立っていましたが、この理由はインフレ率の上昇にあります。では、日本のインフレ率についてみてみましょう。下のグラフをご覧ください。インフレ率のデータは総務省統計局からダウンロードできます。

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日本はデフレ、デフレと言われてきましたが、これを見れば一目瞭然でしょう。インフレ率は長い間ずっと低下基調で推移してきました。インフレ率がマイナスということですから、つまりデフレです。先ほども説明しましたが、デフレ状況下においては、給料が前年の金額と変わらなくても、デフレが2%進めば実質賃金は2%上昇したということになります。

そして、グラフを見ると2012年をボトムとして、直近数年でインフレ率が急速に上昇しているのがわかります。きっかけとしては、自民党が選挙で勝利し、黒田日銀総裁が金融緩和を実施したことで大幅に円安が進行したことによる輸入物価の価格上昇(インフレ)、そして消費増税効果がメインでしたが、実際に企業の業績も一段と回復したことで、物価は全体的に上昇基調となりました。しかし、ここ1-2年は原油価格の大幅下落により、エネルギー関連を中心に物価が下落していることから青線のインフレ率は上昇が一服している一方、赤線の生鮮・エネルギーの影響を除いたインフレ率は緩やかながらも青線を上回る上昇率となっています。

ところで、ここ数年は企業業績は大幅に改善し、最高益を達成する企業も多く目にするようになりました。巷では「ベア、ベア!」と言われていますが、賃金を上昇させるには、結局のところ企業がより多くの給与を従業員に支払うほかありません。では、企業は従業員の給与を増やす余裕がないのでしょうか?

3.企業業績と人件費

では、賃金の支払い側である企業の業績を人件費などと併せてみてみましょう。以下のグラフは、金融業・保険業をのぞく全産業・全規模を対象とした企業業績、人件費等です。ちなみに、企業の統計データについては、財務省のWebページでダウンロードできます。(つい最近まで、財務省HPはハッカー集団アノニマスによる攻撃?によりアクセスできない状況が続いていましたが、当ブログ更新時点では問題なくアクセスできます)

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まず青線の企業の経常利益をご覧ください。この経常利益とは、税金が引かれる前の企業利益と考えてください。なお、グラフが低下している部分は、前年に比べて経常利益が減ったことを意味しており、決っして赤字ではありません(このグラフの期間において、経常利益赤字は発生していません。もちろん個別企業毎には赤字会社も多く含まれていますが)。

そして、次に緑の線、企業の人件費です。1998年あたりまでは上昇していますが、それ以降は殆ど横ばいか、むしろ下がっています。先ほどの毎月勤労統計調査で見たとおり、パート労働者数は増えていますので、賃金自体は全然伸びていません

では、儲かったお金はどこに行っているのか?それが、線の利益剰余金です。利益剰余金は企業が稼いだ利益の蓄積額と考えてください。もちろん、この利益剰余金は現金で保有しているわけではなく、それが新たに設備投資に向かったり、在庫の購入に向かったり、研究開発費に向かったりしていまして、さらなる増収増益に向けて使われているわけです。

と、このように企業は利益の多くを利益剰余金に蓄積(または、株主に対して配当金で還元)しており、従業員への分配(つまり賃金UP)には向かってないのが今のザックリとした全体感です。(企業側からすると、これまで長くはデフレだったため実質賃金は上昇していたとか、最近はインフレだがベースアップなども含めて対応している。ベースアップは一度上げたら簡単に下げられないため、賞与等の一時払いなどとの総合的な処遇で慎重に検討していきたい。みたいな事を言うのでしょうけど。)

さて、ここからは若干余談ですが、個人的見解を述べさせていただきますと、結局難しいのは、企業の経営者のほとんどはオーナー経営(自分が自社の大半の株式を保有している経営者)ではなく、雇われ経営者(自分は自社の株式をほとんど持たず、外部の株主により雇われている経営者)です。雇われ経営者の場合、好業績をあげなければ投資家の期待を裏切ることになり、株価は下がり、株主の批判を受けることになります。場合によっては、解任されてしまうかもしれません。賃金とは、会計上はコストになりますので、短期的には賃金をあげればあげるほどそれだけ経営者自分自身の首を絞めることになります。もちろん、従業員の仕事に対するモチベーションが企業の原動力となるわけですから、経営者はもちろん従業員に対しても配慮するわけですが、株主の意向よりも優先して賃上げをガンガン進めていくというのは、雇われ経営者にとってはなかなか難しい判断といえるでしょう。

4.個人資産を守る方法

現実として、賃金はなかなか伸びない状況が続いています。一方で、急激に少子高齢化が進み、現役世代の人々は将来の年金や社会保障などに不安を抱えている状況です。ですが、政府や企業が助けてくれないのであれば、自分自身で資産・生活を守っていくしかありません。今回のブログはトピックスとして賃金に焦点をあてて解説してきましたが、このブログはマネーライフ講座「皆さんのお金にまつわる不安を解消する」ことを目的としています。マネーライフに関するブログもたくさんエントリーしておりますので、ぜひそちらもご覧いただけますと幸いです。

 最後までご覧いただき、ありがとうございました。

 STAM